でぃするだいありー?

そんな気はないんだれど、でぃすっちゃってる。 でぃすでれ?

ベレンとルーシエン

指輪物語』『ホビットの冒険』『シルマリルの物語』と読み、『指輪物語』は数回以上、『ホビットの冒険』は一回、『シルマリルの物語』は数回程度読んだ。

指輪物語』では世を憂う賢者として、『ホビットの冒険』では非常に俗な存在として、『シルマリルの物語』では神話級の存在として描写されたエルフ。その実像はいずれかと、いささかの違和感を抱きつつ今日に至る。

その程度の読み手であっても、『シルマリルの物語』を最後に読んだ時にはトールキン教授の稚気ともいえるものを感じることができた。すなわち、設定は厨二爆発でも、物語にそれを一切あらわさずに済ますことができるということである。

ベレンルーシエン』については『シルマリルの物語』の中で既知としていたが、ベレンというぽっと出の人物が、モルゴスからシルマリルを奪還する偉業を成し遂げることに疑問を抱いていた。『指輪物語』が数行程度で描写されてしまう歴史の中のこと、詳細がないことにいちいち躓いてもいられない。そういうものだとしてとりあえず受け止めていた。
本書においてようやく得心が行った。ルーシエンという、神に準ずる存在と上古のエルフのハーフが生来有する強力な魔力によるところが大きい。ベレンがそのハートを射止めたがゆえに、決戦兵器ルーシエンはモルゴスと対峙することとなったのだ。神ともいうべき存在を、その居城に存在するものどもとともに、不如意な眠りに誘う歌と舞。EQのバードは歌って眠らせ、歌って透明になり、高速で宙を走ることができた。いかにして、という話題は仲間内でもあったが、ルーシエンが祖たる要素なのかもしれない。ルーシエンベレンの手に神殺しの手段がなかったことは、モルゴスにとって幸運であったというべきか。
ベレンについてはまた、本書の末節において来歴が記されており、父バラヒアをモルゴスに殺められたことで復讐鬼となり名を挙げた人物であることが語られている。別バージョンの一節であるが、そのような人物と解釈して間違いなかろう。

本書は、『シルマリルの物語』の一部をなすエピソードが、いかに推敲されバージョンアップされてきたかを語る。初期の、古民話を焼き直したような物語から、オリジナル世界の神話へと昇華する様を読むことができる。
著者であり、トールキン教授の子息であるクリストファー氏によれば、トールキン教授は『ベレンルーシエン』に関連する創作で挫折もしている。作家の苦悩を作品の推敲上の変遷に垣間見ることができる、本書はその稀有な機会であろう。