読物 『人造人間キカイダー The Novel』
戦闘に登場する道具や技術の蘊蓄を華麗に描写する作家というと、個人的には菊地秀行が筆頭である。十代の頃に薫陶を受け、ここ二十年ばかりはろくすっぽ読んでいないとしても、だ。
意識してかせずしてかそれを真似しようとしてうまくいっていないのが福井晴敏であり、大失敗しているのが本作品である。
読後のがっかり感はダン・シモンズの『ダ・ヴィンチ・コード』と池上永一の『シャングリ・ラ』に似ているが、前述の味付けのまずさも見逃せない。
どんなまずさかというと。
我が身は「鈎手守法」なる技法を使用する術理を十年来学んでいる。ロボットが頭部に装備した角、それをドリルのように回転させつつ、突くか薙いだという攻撃が剛法だとして、これに対して「鈎手守法」が適用できる例を寡聞にして知らない。「テニスの球は光りません」というクレームを第三者的立場からかつては笑ったが、ちょっと笑えない。
これは一例にすぎず、同様の描写を目にするたびに、著者は付け焼き刃な知識でいい加減になんとなく文章をつくっていることが読み取れてくる。