読物 『女騎兵の手記』
ぼくらのヒーロー(ヒロイン)はオマヌケさん。
図書館でふと目にとめて、どんなフィクションかと思えば実在の人物の手になる手記だという。
書き手はなにを思ってこれを記したのだろう。どうやら勇猛ではあったようだが、戦場にいたのに武勲をたてたという記述もなく、ただそこにいて、寝坊を主要因とする失敗をたびかさねた日々を書き連ねるということを、なにがなさしめたのだろう。
ナポレオンがモスクワに侵攻した当時の様子を知る描写としては一片の価値のある手記であろうが、ヒーロー(ヒロイン)を主眼に置いたとき、自らの心のうちを猛々しく語るさまが空々しく響くばかりである。
武勇伝しかも自著となれば盛って語られることが常態であろうから、正直な人物ではあったのだろう。
唐突に、なんのオチもなくそっけなく終わるのは『黒の過程』を思い出させる。
1990年刊。
表紙は、そっけないものではあるが、かつて在りしよき日のいのまたむつみ画である。