でぃするだいありー?

そんな気はないんだれど、でぃすっちゃってる。 でぃすでれ?

スパイスの人類史

 コスマスやビャクダンを「ツァンダナ」と呼んでいるが、これはサンスクリット語およびパーリ語の「チャンダナ」をギリシャ文字で正確に写したものである。ローマ帝国衰亡以前の西洋ではまったく知られていなかったビャクダンも、それから数世紀の間にいくぶん馴染みのある香料になった。ビザンティン帝国初期の医師アエティオスは「サンダナ」、十世紀のペルシア人ムワフィク・イブン・アリーは「サンダル」と記しており、十三世紀のフランス語では「サンダリ」、十五世紀の英語では「サンダル」と呼ばれていた。だが十六世紀までは、ヨーロッパに入ってくる現物はごくわずかにすぎなかった。

P.38

 ――中でも名高いのがシバ、つまりサバエアで、その都は現在のサヌア〔イエメンの首都〕の近くにあった。北西の端には、広々として美しい、いわゆる「シリアの谷」がある。レバノン山脈とアンティレヴァノン山脈に挟まれたこの地域は、さまざまな香料の産地として知られていた。

P.172

 「チョコレート」という呼び名も、実はこの頃(一五九〇年)に新しく考え出されたものだった。それは、すり潰したカカオと、同じくすり潰したサポーテの種子やトウモロコシ、そしてさまざまな香辛料を熱い湯で混ぜた、たいそう元気が出る飲み物だった。十六世紀の末に、スペイン人の博物学者フランシスコ・エルナンデスが、初めてこの飲み物に言及している。その新しい名前「チョコラトル」は、マヤ語の「チョコル」(熱い)とナワトル語の「アトル」(水)のスペイン風ブレンドとでも言うべきもので、さまざまな文化が入り混じった植民地時代のメキシコにふさわしい造語である。

P.242

 フランク・ハーバートの『デューン』を二読したあたりまで、物語初期では「メランジ」と言わず、「スパイス」を多用していたのかと、妙に気になっていた。「スパイス」と表現されるたびに苛立ちすら感じていた。だって「メランジ」かっこいいじゃん!(高二病

非常に高価なもので、入手することのできる権力あるいは富を持つものはコーヒーに混ぜて喫するなどしている。というのも、長寿の薬効が知られているからで、他に適性のあるものに未来予知を授ける。デューン世界では、未来予知なしに安全な恒星間航行ができないとされている。
副作用として強力な中毒性があり、中毒者は眼球が青く染まる。劇中で表現されている「スパイス」というより「ドラッグ」で、おそらくこの言葉を避けるために「スパイス」を強調したのだろうと、当時は思うようになった。

本書を読んで新たに、「ドラッグ」という言葉を避けたうえで、権力闘争の対象としてふさわしい言葉として「スパイス」を選んだのではないかと思うようになった。大航海時代にヨーロッパ諸国がそうしていたように。
馴染みのない造語よりも、馴染みのある言葉を用いて、背景にある事情をより強く印象付けようとしたのかもしれない。

人類史を大きく俯瞰する楽しみは『銃・病原菌・鉄』で覚えたが、本書もその風合いを持ち、とても面白く読めた。

余談だが、FSSの登場人物は一部香辛料から名前を取っているのかもしれない。引用したチャンダナの他には、カイエンペッパーというものがあるらしい。