でぃするだいありー?

そんな気はないんだれど、でぃすっちゃってる。 でぃすでれ?

人はどのように鉄を作ってきたか

 

・・・当時、アナトリア地方にはプロト・ヒッタイトと呼ばれる人々が住んでおり、高度な鋼の加工技術を持っていたことが分かる。そして、彼らが製鉄法を発見したと言われている。
 当時、この地方は青銅器文明の時代で、銅製錬が行われていた。酸化銅の鉱石はシリカを多く含んでおり、シリカを除去するために鉄鉱石やマンガン鉱石を砕いて製錬炉に投入した。そしてシリカをファイアライト(\rm{2FeO・SiO_{2}})組成に近い酸化鉄濃度の高い組成のスラグにして流出させ、銅は溶融状態で得た。酸化銅の鉱石が少なくなり、硫化鉄を含む硫化銅鉱石を用いるようになると、焙焼(製錬の予備処理として鉱石を加熱すること)して酸化銅にした後、酸化鉄を分離するため炉にシリカを投入してファイアライトに近い組成のスラグとして流出させた。この時、炉内の還元状態が少し強くなり、偶然に鉄が得られたと考えられている。

P.37

たたら製鉄の解説)・・・天秤鞴(ふいご)は2枚の板の両端を支点として真ん中に「番子(ばんこ)」が1人乗って交互に踏んで送風するようになっていた。羽口は長炉壁の下部にそれぞれ20本、合計40本開けられている。1時間交代で行ったので「代わりばんこ」、両足を交互に踏むので「たたらを踏む」という言葉が生まれた。

P.133

 

1992年ごろ関西地方に居住していた。おそらく大阪でTRPGのコンベンションに参加したときのこと、初見のマスターがとあるダンジョンの一室を説明して「鉄板の切り抜きがある。おそらく剣を切り抜いた屑であろう」というようなことを述べた。
若さゆえ、突っ込まずにはいられなかった。「剣を作るより、鉄板を作る方が大変だ」
この発言には確たる裏付けはなかったが、当時有していた鍛冶の知識からでも脊髄反射的にそのような論を述べることはできた。いわゆるファンタジー世界の文明レベルであれば、鉄板を造る手間で、それから製造できる量の何倍も剣を、鋳造でも鍛造でもできるであろうことは想像に難くない。ましてや鉄板を切るとか大変すぎる。当時ホームセンターとかでよく見かけた安っちい山刀から着想を得たのであろうか。
本書によれば、鉄板を容易に量産できるようになったのは1949年のこと(アイデアは19世紀に存在し、1930年代には真鍮とアルミニウムで工業化されていたそうな)だという。正しかったことになるが、やや意外ではある。もう少し早いと思ってた。
ちなみに、その場は「鉄板を造れるほど技術力の高い集団の根拠地なわけだね、おっけー」くらいなノリでフォローし、脱線は数分で納めたと記憶している。ちなみに、鉄板を造れる技術力はストーリーには関係なかった。武器製造所であることが示されればよく、ディティールに色気を出したということだろう。

それより前のこと、1987年ごろのことか。
同級生とやっていたTRPGでマスターが「魔剣ではないが軽量の剣」を登場させた。これがなんだかわかるかと得意げに問い、参加者らがわからないと答えると、アルミニウムだと答えた。アルミニウムの製錬には電気が必要だとそのとき教えられ、いわゆるファンタジー世界の文明レベルでも魔術でなんとかなりそうだと得心させられたものだ。

同じようなマスターのこだわりも、見せ方とその背景となるもののありようによって受け止められ方が異なるということになる。

 

さて、本書はといえば、門外漢向けの書ではない。

  • 著者自身による論文ないしは記事からの引用であろうか、不意に固有名詞が出現し、それが製鉄に関する固有名詞なのか、研究者の人名なのか、容易には判別しがたい。
  • 製鉄に関する固有名詞に解説がないことが多い。

上記二点を難とするが、化学のコトバで説明された製鉄技術は初見でとてもユニークに感じられ、興味深い。
化学はまったく得意ではないが、とても楽しめた。青銅器文化と鉄器文化には技術的に埋めがたい断絶があるように感じており、どういう経緯で融点の高い金属の利用が常態になったのか知らずにいたのだが、化学反応による偶然が橋を渡したという考察は実に面白い。