でぃするだいありー?

そんな気はないんだれど、でぃすっちゃってる。 でぃすでれ?

読物 『新版 危険な話』

――物理学の原理がありまして、被バク量の問題です〔注―ヒバクには被爆と被曝という表記があり、一般的には原水爆による直接の閃光・爆風等を浴びた場合には被爆、その肉体的被害なしに放射線を浴びたり、体内に死の灰を取り込んだ場合には被曝、というように使い分けられるが、厳密には区別できない被害が多い。本書では主に被バクと表記する〕。たとえばここにコバルトの放射性物質がひと粒あったとします。私が二メートルのところに立っていて、一メートルの距離に近づいたらどうなるでしょう。”被バク量は距離の二乗に反比例する”という物理学の法則があります。ということは距離が二分の一になりますね。反比例するわけですから二の二乗、つまり四倍になるわけです。距離が半分に近付くと二倍の被バク量になるのではなく、四倍になります。
 これは外からの場合ですが、今度は外部から受けた場合と肺に吸い込んだ内部からの被バクを比べてみましょう。一メートルの距離にあった粉を吸い込んでしまったとします。そうすると肺の中でペタッと肺の細胞にくっついてしまいますよね。一メートルのところにあったものは一〇〇〇ミリです。それが肺にペタッとくっつけば、薄い液の膜があるだけで一〇〇〇分の一ミリ単位になってしまいますから、一〇〇〇掛ける一〇〇〇で一〇〇万、距離が一〇〇万分の一になります。ということは一〇〇万の二乗になって、計算上は実に一兆倍の被バク量になります。現実には、細胞の損傷や周囲の変化が生じて、このように単純な数値で表せないことは言うまでもありません。被バクの定義そのものに問題があるのです。

P.76

――数年前に、大阪のドヤ街・釜ヶ崎で何日か過ごしてみました。そこで作業する人たちが、「放射能で殺されても証明できない」と話してくれた言葉を忘れません。「ブルで轢かれりゃ分かるが、プルで白血病になっても分からん」と言ってました。

P.163

 さらに地震の時には、津波が来ます。津波が来ると、海水が退くという現象も交互に現れます。日本の原子炉はみな海水で冷やしているため、海水が退けば冷やせなくなります。何秒間か、いや、かなり長いあいだ海底が沖合まで現れるほど退いていきます。
 これを防ぐため取水口を遠く沖合まで伸ばせばよいではないか、と考えるのですが、潮は取水口と排水口、つまり入口と出口の両方で同時に退いてゆきますので、復水器のほうは空っぽになる。復水器とは、原子炉から出た蒸気を水に戻すための海水冷却装置で、きわめて重要なものです。津波が引く力に勝てるような大馬力のポンプは作り得ません。そのとき起こり得るのは、特に沸騰水型でスチームを冷やせなくなり、原子炉のなかで水蒸気の圧力が急激に高くなって、日本の原子炉に特有の出力異常上昇が起こる事故です。

P.300

 原子力は石油の節約にならないのです。原子力そのものが石油製品で、原子炉一基は火力発電所の三倍の建造コストを要しますから、コスト=エネルギー消費量という現代の数式から考えて、火力より浪費していることは明かです。ウランの採掘から精製・運転まで、大量の石油を消費して発電しています。しかもここに、最大の問題であり、永遠に管理しなければならない廃棄物のコストが入っていない。まだ技術がないため、計算さえできないのです。これが大量に化石エネルギーを食い続ける事実に、一刻も早く気づくべきです。
 使えなくなった原子炉のコストも入っていない。先日、東海村で”初の原子炉解体”などと宣伝しましたが、それだけで数百億円という馬鹿げた費用をかける。あれは現在商業用に使っている一〇〇万キロワット級原子炉の、数十分の一というオモチャのような研究炉です。
 さて、原子力に反対している私の話では信じないかもしれないので、むしろ推進側と言ってもいい、”日経ビジネス”一九八四年七月二三日号をお見せします。”原発は本当に安いのか”という表題で、一七頁にわたる大特集が組まれています。
 その最初に出てくるのが、このコスト上昇グラフです。うなぎのぼりの原発建設費――と書かれておりまして、いまや一基五〇〇〇億円の大台に乗ろうとしている。さて、誰がこの大金を払っているのでしょう。
 皆さんです。日本の電気料金は、世界一高い水準にある。これが、さきほど申しあげた企業戦略の答です。社会問題ではない。
 わが国には、電気事業法という法律があり、「投資した額の八パーセント以上儲けてはならない」と定めています。公益事業だから儲けすぎてはならない。一見すると立派な法のようですが、裏返して考えれば、八パーセントまでは儲けてよいことになる。つまり利益保証つきの安全な産業です。
 もうひとひねりしてください。皆さんが電力会社の社長であれば、どうしますか。一〇〇円投資すれば、八パーセントだから八円の利益になるところまで電気料金を値上げしていいわけです。いや、一〇〇〇円投資すれば、八〇円儲けてよい。一万円投資すれば、八〇〇円儲けてよい。こうして、火力の三倍ものコストをかけて、湯水のように金を使えば使うほど儲かる仕組みの悪法です。いや、問題はこれほど単純ではないのです。実は私もこれまでにさまざまなコスト計算を試みたのですが、その結果、あることを知りました。電力会社が、コスト計算の基になる正しい資料を公開していない、つまり公表されているコスト計算そのものが疑わしい。

P.366

 そして、このような建設工事では、建設費の三パーセントを政治家にリベートとして与えるのが業界の常識となっている。五〇〇〇億円の三パーセントですから、実に原子炉一基で一五〇億円が政治家の懐に転がりこむ。ロッキード事件の五億円で大騒ぎしていますが、こちらは一五〇億の話ですよ。なぜこの重大なほうに誰も目を向けないのか。政治家を動かしてきたのは、日本の基幹産業である電力会社だったのです。

P.369

前世紀末ごろ、『赤い盾』を振りかざし、仏法の守護者を名乗るコテハンの書き込みを読んだことがある。知らないことばかりだったし、煽りや賛同も含めて楽しく読ませていただいたが、視線が生温かくなることを禁じ得なかった。『フーコーの振り子』が示したアイロニーの如く。

本書も、楽しんで読ませていただいた。知らないことを知るのは楽しい。最近流行らしいオロナミンC牛乳を試してみようと思って、この人生で初めてオロナミンCをコップに注いでみたらRe-Animatedしてしまいそうな色合いだったとか。ちなみにオロナミンC牛乳はおいしいといえなくもないが、それぞれ別に飲んだほうがおいしいと思った。
知ることは楽しい。だが、本書の場合、知ることによって絶望感が募ってゆく。最終章で、生温かくなるまでは。
ともあれ、楽しく絶望するという得難い経験をしながら一気に読破した。

資本主義はそろそろ、前借主義と名を改めるべきではなかろうか。