でぃするだいありー?

そんな気はないんだれど、でぃすっちゃってる。 でぃすでれ?

海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで

 すでに指摘したとおり、東地中海の沿岸地域から十字軍は撤退したものの、海上においてはヨーロッパ側に優位な状況が続いていた。その理由として、海軍史家のルイスとランヤンは、次の三点を指摘している。
 第一が政府・行政機構の発達の差である。ヨーロッパ諸国は、大型の財政計画を実施できる官僚機構が発達し、大艦隊を整備・維持するための財源を確保することができたのに対し、イスラーム諸国は、エジプトのマルムーク朝(一二五〇~一五一七年)のように奴隷徴収兵による統治あるいは部族的な統治に依存し、政府・行政機構を発達させることができなかったとされる。
 第二が商業システムの発達の差である。ヨーロッパでは金融や会計、保険のシステムが発達し、その結果、イタリアを中心とするヨーロッパ商人は、活発な海上交易を展開し、イスラーム商人との競争に打ち勝つことができたとされる。
 第三が海事技術の差である。とくに造船技術では、ヨーロッパが航海能力や積載能力の高い帆船のコグ船を生み出したのに対し、イスラーム側は小型ガレー船以外でヨーロッパに対抗することはできなくなったとされる。なお、北欧で開発されたコグ船は、のちに見るとおり、改良されて大航海時代に活躍するカラック船などを生み出すことになる。
 ともあれ、この時代のヨーロッパの政治的、経済的、技術的な発展は、地中海の勢力バランスを変え、地中海での商業活動を担うイタリア諸都市のさらなる発展を促したのである。

P.71

 ティーチの凶暴さは、外見ばかりでなく、その行動にも現れている。
 あるとき、ティーチは、一人の船員と船長室で酒を酌み交わしていたが、こっそりとテーブルの下で二丁のピストルを構え、引き金を引く。一丁のピストルは不発に終わったが、もう一丁のピストルは、男のひざを打ち抜くのである。いったいどうしてそんなことをしたのかと尋ねられたティーチは、「時には手下の一人も殺さねえことにや、おめえたちは俺様がだれかってことを忘れちまうだろうからな」といったという。

P.192

まず、文章について。
時折、物語風な語りが入る。それは小説めいており、実際にあったことを悪気なく脚色しているのであろうと察せられる。しかし、これは蛇足に思える。そういうのは歴史小説だけでいいと我がトラウマが囁くのだ。

次に、本書が読み手に及ぼした影響について。
この種の本を読むと、常に小中学校の歴史の授業に思いを馳せてしまうを禁じ得ない。暗記能力を試されるテストのためだけに、いかに無駄な時間が費やされたことかと。小中学校の世界史がきっかけとなって人生を左右されるのは、ごく一部の人間だけであろう。社会人になってから、レパントの海戦とかスペインの無敵艦隊とかいう教養を必要とする場面には出くわしたことがない。ヲトナの社会では、そういうことを知っていても教養があるとは思われず、特殊性癖の持ち主と思われるのが現実であろう。
歴史の楽しみは手塚治虫で覚えた。具体的には『三つ目がとおる』に依ること大である。

本書は、古代から近世初頭までの地中海とヨーロッパ、それ以後は新大陸の一部まで拡大しているが、主として地中海を中心にした限定的な内容になっており、インドを含めたアジアについてはごく限られた描写にとどまっている。そのうちで印象的だったのが、トルコがスペインに敗れ、スペインがイギリスに敗れた流れを海賊という切り口で説明していることだ。その前段は十字軍、後段は大航海時代となる。

十字軍というと、わりと最近鑑賞した映画に『キングダム・オブ・ヘブン』がある。同映画では、十字軍は欲にまみれ、敵方であるイスラム、具体的にサラディンは高潔極まりなく描写されている。宗教的対立をラブロマンスにしちゃったいつものハリウッドだが、キリスト教に対するネガティブな主観が滲みでている。キリスト教圏のある特定層は、キリスト教圏を堕落の巣窟として描き、対照としてモンゴルやイスラムに抱いている伝説的な畏怖と憧憬を描くことがあるのだが、その一形態であろう。
十字軍派遣のきっかけとなった事物の一つが地中海を跳梁したイスラム系海賊にあると、本書は語る。権力の不安定が地中海の不安定すなわち海賊を生む。敵対する勢力に対し発揮されるこの力は、富や制海権を奪うことになる。犠牲者の中で声がでかかったのがイタリアの商人で、ローマ法王がその意を受けて信者たちに呼びかけたという流れだ。私という読み手には、これは十字軍に対する新しい知見である。
イスラム勢力は当時イベリア半島にも領土を持っていたが、スペインの誕生により同地の勢力を失う。これによりイスラム勢力は地中海での影響力を弱めていく。失地というか失海回復を図るがうまくいったりいかなかったり。その雌雄を決したのがレパントの海戦、勝者は無敵艦隊として知られるようになる。

スペインが得た新世界の領土、そこから得られる資源をイギリスは横取りしはじめる。私掠船というやつだ。スペインはイギリスに抗議するが、おいしすぎるのでイギリスはやめられない。頭にきたスペインは無敵艦隊を派遣するが、奇襲によりこれを叩いたのがフランシス・ドレイクである。FGOは「世界一周」よりも「無敵艦隊を破った」ことを強調してもいいんじゃなかろうか。
こうしてスペインは斜陽を迎え、イギリスは植民地支配で先輩面をしはじめる。

最後に一点、気になることとして。
著者の来歴を知らないので単なる印象ではあるが。キリスト教徒であるがゆえのことか、キリスト教への遠慮か不明だが、その辺に関する配慮が、本書から感じられるような気がする。